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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)4030号 判決

原告

下倉保三

ほか一名

被告

羽根浩介

ほか一名

主文

被告らは各自、原告下倉保三に対し、金五八万〇、一〇四円およびうち金五二万〇、一〇四円に対する昭和四九年一一月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告株式会社下倉商店に対し、金四一万五、六三八円およびうち金三七万五、六三八円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告下倉保三に対し、金九四万二、八九〇円およびうち金八二万二、八九〇円に対する昭和四九年一一月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告株式会社下倉商店に対し、金四八万九、三〇〇円およびうち金四二万九、三〇〇円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四九年一一月一七日午後五時〇分頃

2  場所 大阪市西区靱本町一丁目九一番地

国道一七六号線交差点

3  加害車 (1)普通乗用自動車(泉ふ三六四七号=牽引車)

(2)貨客乗用自動車(ライトバン=被牽引車)

牽引車の運転者 被告羽根浩介

4  被害者 原告下倉保三

5  態様 被害者が前記交差点を東から西へ横断歩行していた際、故障車をロープで牽引し、同交差点を東方面より左折してきた加害車が、被害者の直前を通過しようとしたため、被害者が右ロープに足をとられ、路上に転倒したもの。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告羽根浩介は牽引車を所有し、被告株式会社高砂堂は被牽引車を所有して、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告高砂堂は、被告羽根に依頼、指示して被告高砂堂所有のライトバンを牽引させていたとき、被告羽根が後記過失により本件事故を発生させた。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告羽根は前方不注視、徐行違反、左折不適当、側方至近通過、歩行者優先無視の過失により本件事故を発生させ、原告らに後記損害を与えた。

三  損害

(原告下倉について)

1 受傷、治療経過等

(一) 受傷

右膝部挫傷及び捻挫、膝関節内血腫

(二) 治療経過

入院

昭和四九年一一月一八日から昭和四九年一二月二八日まで四一日間手島外科病院に入院

通院

昭和四九年一一月一七日および昭和四九年一二月二九日から昭和五〇年三月一五日(七七日間((実通院日数二五日)))まで右病院に通院。

2 損害明細

(一) 診断書代 金一、〇〇〇円

(二) 入院雑費 金二万〇、五〇〇円

入院中一日五〇〇円の割合による四一日分

(三) 入院付添費 金六万五、〇〇〇円

入院中山名芳子が付添い、一日二、六〇〇円の割合による二五日分

(四) 入・退院及び通院交通費 金二万一、三九〇円

(五) ビル管理人雇用報酬 金二一万五、〇〇〇円

原告下倉は五戸の貸ビルを所有し、自らその管理業務を行なつていたが、本件事故のため右業務を行うことができず、清水小夜子を雇用し、同人に金二一万五、〇〇〇円を支払つた。

(六) 慰藉料 金五〇万円

原告下倉は四一日間の入院を余儀なくされ、かつ、長期間の通院中、歩行困難の状態に苦しみ、現在も若干歩行に苦痛を感ずる日がある。また本件事故による苦痛のため顔面神経痛が悪化し、現在なお、その治療を受けているものである。

(七) 弁護士費用 金一二万円

右(一)ないし(七)の合計金九四万二、八九〇円

(原告会社について)

(一) 原告下倉の給料 金四二万九、三〇〇円

原告会社は、ブラウス卸売商を営むもので代表取締役である原告下倉を含め従業員六名の個人企業であるが、原告下倉は前記入院中は全く、通院中も殆んど業務に従事することができなかつた。従つて、右期間中、原告会社が原告下倉に支払つた給料は、原告会社が被つた損害となるところ、原告下倉の一カ月の給料は金一六万円であり、入院中は全額、通院中は二分の一として算出すると、昭和四九年一一月分六万九、三〇〇円、同年一二月分一六万円、昭和五〇年一、二月分各八万円、同年三月分四万円で合計四二万九、三〇〇円となる。

(二) 弁護士費用 金六万円

右(一)と(二)の合計金四八万九、三〇〇円

四  よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。ただし弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一の1ないし4は認めるが、5は争う。

二は全て否認する。

三は不知。

四は争う。

第四被告らの主張

(被告羽根)

一  免責

被告羽根は、本件交差点を左折するに当り、前後左右を充分確認し、交差点東南角歩道上に原告下倉とその同伴者が佇立しているのを発見したが、横断する気配が全くなかつたので、減速、徐行して左折を開始し、牽引車が左折をほぼ終えた処、いきなり原告下倉が車道に飛び出し、牽引車のロープに接触、転倒した。原告下倉は、被牽引車がロープによつて牽引・運行されていることを熟知しながら、牽引車がすでに左折を終つたとき、牽引車と被牽引車との間を強引に横切ろうとして飛び出したものである。よつて、本件事故は原告下倉の不注意な飛び出し行為に起因するもので、被告羽根には何らの過失もなく、かつ牽引車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告羽根には損害賠償責任がない。

二  過失相殺

仮に被告羽根に過失があるとしても、原告下倉に比べると微々たるものであるから、相当の過失相殺がなされて然るべきである。

三  弁済

原告下倉は、左のとおり、弁済を受けている。

1 治療費 合計金六二万一、六七〇円

(一) 入院中の治療費 五一万九、二五〇円

(二) 通院中の治療費 一〇万二、四二〇円

2 付添看護料 合計金七万四、二七〇円

昭和四九年一一月一八日より同年一二月三日まで(一六日間)の分

右1 2の計 金六九万五、九四〇円

(被告高砂堂)

一  過失相殺

本件事故は、車道上に急に出てきた原告下倉に、危険を感じて被告羽根が急停車したので、原告下倉が牽引用ロープに足をひつかけて転倒したものであるが、被告らは警察の指導に従い、故障車を牽引しており、本件交差点で左折する際は一時停止して、原告らの動きを見たうえで時速五ないし一〇キロメートル程度で左折開始したところ、原告下倉が急に出てきたため、急制動の措置をとり、かつクラクシヨンを鳴らした。他方、原告下倉は、目前を通過した牽引車には気付きながら同車の僅か三メートル程度後方に後続していた被牽引車には全く気付かず、かつ、同原告の目の前に張られている白の目につきやすい牽引用ロープにも気付かないまま、慢然と牽引車の後を横切ろうとしたものである。これら事実によると、本件事故は主に原告下倉の非常に不注意な歩行態様に起因したことが明白で、被告羽根の過失は僅かであるから、充分な過失相殺がなされるべきである。

二  被告高砂堂の責任について

1 被告高砂堂の運行供用者責任については、本件事故当時、被告高砂堂所有の被牽引車は故障しておりエンジンが全くかからず、牽引車に牽引されていた状態にあつたから、到底自動車を当該装置の用方に従つて用いたものとは云えず、右状態は自賠法にいう「運行」には該らないものである。

従つて右責任を負うことはない。

2 被告高砂堂の使用者責任については、被告高砂堂と被告羽根との関係は雇用関係になく(被告高砂堂の代表者と被告羽根とが姻戚関係にあるにすぎない。)、被告羽根が本件事故時に被告高砂堂の車を牽引していたのは、被告羽根が偶々他の用事で被告高砂堂の代表者に電話連絡した際、同人が被告羽根に右車を平野警察署から被告高砂堂まで牽引するように依頼したためである。その際、被告高砂堂は被告羽根に具体的な指示を与えていないし、牽引車は被告羽根の所有車であり、牽引するに際し、使用したロープ等も被告羽根が自分の判断で購入し、その費用も同被告が負担しており、具体的な牽引行為については、全て被告羽根の裁量によりなされたもので被告高砂堂に於て、被告羽根を指揮監督していたものではない。よつて、被告高砂堂は使用者責任についても又、負うべき筋合にない。

三  損害について

1 原告会社の損害とされる原告下倉の給料分につき、原告下倉は原告会社の代表者であるから、それには、当然労働の対価以外の役員報酬部分も相当程度含まれていることは明らかであるところ、役員報酬として支払つた部分については、原告会社に損害が生じていない。

2 さらに、原告らは、原告下倉が本件事故のため休業していた間、同原告のしていたビル管理業の手伝として一人の人間を雇い入れたとしてその者の給料分をも請求しているが、原告本人下倉の供述等によれば、右雇用した者は、ビル管理もさることながら主として原告会社の業務に従事していたことが明らかである。そうするとこの分は、原告会社請求分の原告下倉の給料損害と重複しているから、右代替労賃を認める限りで、原告会社の請求は減額されるべきである。

第五被告らの主張に対する原告らの反論

一  過失相殺の主張に対しては、本件事故は原告らが交差点を横断せんとして、既に交差点にさしかかつており、被告羽根も原告らが横断しようとしているのを確認していたにも拘らず、強引に原告の前方を通行しようとしたために発生したのであつて、事故発生の責任は全面的に被告羽根にある。しかも被告羽根は、警笛を鳴らす等、原告らの注意を喚起する処置もとらず、牽引するロープに道交法施行令二五条の二所定の目印もつけていなかつたのであるから、運転者としてとるべき最低の処置すら講じていないのであつて、本件は原告下倉の過失が云々されるべき事案ではない。

二  被告高砂堂の責任否認の主張に対しては、

1  その使用者責任につき、被告羽根は、被告高砂堂の代表者の妻の弟であり、身分的に同代表者に対し、従属的な関係にあつたと考えられるばかりでなく、本件事故当日は、被告高砂堂の社員訴外西岡清明を前記自己所有車に同乗させて平野警察署に赴き、同警察署より被告高砂堂まで、右訴外西岡を被告高砂堂の被牽引車に乗車させ、自分はその所有車を運転し、牽引していたものであること、原告下倉の治療費等は、被告高砂堂の小切手で支払われていること、当初、示談交渉は主として右訴外西岡が担当していたこと等に徴すると、具体的な牽引行為がある程度、被告羽根の裁量によりなされたとしても、被告高砂堂は、自己の業務のため他人を使用する者に該当し、使用者責任を免れるものではないのである。

2  運行供用者責任につき、被告高砂堂所有車は、エンジンが故障し、牽引される状態であつたとしてもハンドル操作ならびにブレーキの操作による操縦の自由を有していたのであるから、これら装置を操作しつつ走行していた以上、自賠法三条に云う運行に該当し、被告高砂堂は運行供用者責任を免れるものではない。なお、本件事故当時、牽引されていた車は、ライトバンであつた。同車には、高砂堂という一尺角の三文字が明記されており、且つ形状も被告高砂堂が主張する被牽引車とは明らかに異なるものであつた。本件事故発生当時、現場へ来た警察官が被牽引車を一見して、「渥美さんとこの車やな」と言つた事実からしても、被牽引車は一見して被告高砂堂所有の車であることが明らかな車両であつたと窺われ、この点について原告らの記憶に誤りがあるとは到底考えられないのである。実況見分時、原告下倉の妻は、被牽引車が相違する旨を述べて強く抗議したのであるが、訴外西岡が被告ら主張の車両であつたと主張し、且つ警察官も原告下倉の妻の主張をとりあげようとしなかつた。

三  原告会社の損害について

1  原告会社は、資本金一八〇万円、原告下倉夫婦を含め従業員が六名で、代表者である原告下倉自身が仕入、アイロンかけ、裁断等の雑多な作業を行なつていた極めて小規模な個人会社であり、原告下倉が原告会社から受取つていた月給金一六万円は、役員報酬というより労務の提供に対する対価と考えるべきである。従つて、原告下倉が就業していない間、原告会社が同原告に支払つた給料全てが、原告会社の損害と認められるべきである。

2  原告下倉がビル管理のため訴外清水を雇い人れたのは、ビルの管理をしてもらうためであつて、原告会社の仕事をさせるためではない。ビルの管理という仕事の性質上(朝夕に仕事が集中する。)、偶々手のすいた時に原告会社の電話番をした等の事実があつても、これによつて、原告会社請求分の原告下倉の給料損害と重複するものではない。

第六証拠関係〔略〕

理由

第一事故の発生

請求原因一の1ないし4の事実は、当事者間に争がなく、成立に争いのない乙第四号証、証人西岡清明、同下倉キクエの各証言および原告本人下倉、被告本人羽根の各尋問結果によれば同5の事実が認められる。

同5の事故の態様については後記第二で認定するとおりである。

第二責任原因

一  運行供用者責任

証人西岡清明、被告高砂堂代表者渥美弘三および被告本人羽根の各供述によれば、加害車両たる牽引車(泉ふ三六四七号)は、被告羽根が所有して、運行していたものであり、被牽引車は、被告高砂堂の所有車であるところ、本件事故当時、同車は、エンジンが故障し、牽引車により牽引されていた状態にあつたが、ハンドル、ブレーキ装置等には異常がなく、これを操縦して走行していたことが認められるから、被告高砂堂も、また被牽引車を運行の用に供していたと解するに支障はなく、従つて、被告らは自賠法三条により、免責の抗弁が認められない限り、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

なお、被牽引車につき、それが原告ら主張のライトバンであるか、否かは、本件全証拠を以てしても判明しないが、それが被告高砂堂の所有車に相違ない以上、そのことによつて、被告高砂堂の責任が左右されることはない。

二  使用者責任

前掲西岡証人、被告高砂堂代表者渥美および被告本人羽根の各供述によれば、被告高砂堂の代表者である渥美弘三は、本件事故当日に偶々、被告羽根から電話をうけその際、当日は日曜日で業者が休業していたので、同被告に、電話にて前日、渥美が運転中、追突されて故障し、平野警察署に保管されている故障車(被牽引車)を平野警察署から、被告高砂堂まで牽引して欲しい旨、依頼したこと、被告羽根はこれを承諾し、牽引用のロープを購入し、自己所有車を運転して訴外西岡清明と共に平野警察署に赴き、故障車を牽引して被告高砂堂へ運ぶ途中、本件事故を起こしたこと、故障車を運転していた訴外西岡は、被告高砂堂の従業員であり、被告羽根は、従業員ではないが、右渥美の妻の実弟であることが、それぞれ認められる。

右事実によれば被告高砂堂は、一時的にしろ、その代表者の義弟である被告羽根を使用して自己の業務を行なつたに他ならず、被告羽根は、被告高砂堂と雇用関係になく、本件事故時、被告高砂堂の右業務に偶々、臨時的に関与したにすぎず、自費でロープ購入等をしたとしても、それらのことで本件牽引時の使用関係が否定されるものでもないから、被告高砂堂は、民法七一五条一項による責任を免れない。

三  不法行為責任

前掲乙第四号証、検甲第一ないし第五号証、証人西岡清明、同下倉キクエ、原告本人下倉および被告本人羽根の各供述を総合すると、次の事実を認めることができ、これを覆えすに足りる証拠は存しない。即ち、被告羽根は、牽引車を運転して東から西へ向け進行し、本件交差点に至り、南方面へ左折しようとした際、同じく東から西へ歩行していた原告下倉とその同伴者が左折進行方向の道路の手前東側で立ち止まつたので、先進できると考え、左折を開始し、ほぼ牽引車が左折を完了した位置になつたとき、そのバツクミラーに同原告の姿が映つたので急拠ブレーキを踏み、下車してみると、同原告が、牽引用のロープに足をとられて転倒していた。牽引車(被牽引車も)は、被告羽根が左折を開始してから、右原告の姿を認めて停車するまで、九メートル余、走行している。他方、原告下倉は、前記交差点の南側道路(その幅員は一一メートル)を約三メートル程東から西へ横断したとき、牽引車が同原告の直前を通過したので、一瞬、立ち止まるも、右車が通過したので大丈夫と思い、歩き出したところ、牽引用のロープに足をとられた。本件事故当時は、右ロープに目印の白色の布がつけられていず、また原告下倉が横断していた地点は、横断歩道は設けられていなかつたが、交差点にあつた。以上、認められる事実によれば、被告羽根には、本件事故当時、故障車を牽引していたのであるから、牽引のロープに白色の布をつけ(道路交通法施行令二五条二項、二)、また左折するに当つては、歩行者の横断を妨げないようにして進行しなければならない(道路交通法三八条の二)のに、ロープに巻きつけた布がとれたのに気付かないまま牽引し、本件左折の際は、その進路(左折)方向の道路を横断しようとしている原告下倉の姿を認めたにも抱らず、先進できるものと軽信し、且つ、原告らの動静に注意を欠いて慢然、左折進行した過失がある。

よつて、被告羽根は、民法七〇九条により、原告らに生じた損害を賠償しなければならず同被告の運行供用者責任に対する免責の抗弁についても、その理由がないことに帰する。

第三損害

(原告下倉について)

1  受傷、治療経過等

各成立に争いのない甲第二、第三、第五、第六号証および原告本人下倉の供述によれば、請求原因三の1(一)、(二)の事実が認定できる。

2  治療関係費

(一) 診断書代 金一、〇〇〇円

成立に争いのない甲第四号証によれば、診断書代として金一、〇〇〇円を要したことが認められる。

(二) 入院雑費 金二万〇、五〇〇円

原告下倉が四一日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日五〇〇円の割合による合計金二万〇、五〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(三) 入院付添費 金六万五、〇〇〇円

原告本人下倉の供述により真正に成立したと認める甲第五号証と同原告本人の供述によれば、原告は前記入院期間中、付添看護を要し、昭和四九年一二月四日から同月二八日までの二五日間は山名芳子に付添をしてもらい、同女に一日二、六〇〇円の割合による合計金六万五、〇〇〇円の付添料を支払つたことが認められる。

(四) 入・退院・通院交通費 金一万八、七二〇円

原告本人下倉の供述によれば、手島外科病院に入・退院する際および二五日の通院の合計二六往復をタクシーでなし、一回片道三六〇円合計金一万九、四四〇円のタクシー料金を要したことが認められる。

3  ビル管理人報酬 金一五万円

原告本人下倉の供述により真正に成立したと認める甲第六号証、証人下倉キクエおよび右原告本人の供述によれば、原告下倉は同人が所有する五戸のビルのうち、二戸のビルの管理をしていたが、本件事故による受傷で右業務をなすことができないため、清水小夜子を雇用し、右ビルの管理をしてもらい、同女に報酬として金二一万五、〇〇〇円を支払つたことが認められる。然るに右金員のうち、昭和五〇年一二月三一日に支払つた金六万五、〇〇〇円は餅代として支払つたことが窺われ、右仕事に対する対価とは認め難く、このような性格の金員まで交通事故の加害者が支払わなければならないとするのは相当でなく、事故と相当因果関係にないから、原告下倉がビル管理ができず、被つた損害としては、右金六万五、〇〇〇円を控除した金一五万円の限度で認めるものである。

4  慰藉料 金四〇万円

前記認定の本件事故の態様、原告下倉の傷害の部位・程度・治療の経過ならびに成立に争いのない甲第八号証原告本人下倉の供述により認められる本件事故による顔面神経痛悪化の事実等に照らすと、原告下倉の慰藉料は、金四〇万円とするのが相当である。

右2ないし4の損害合計金六五万五、二二〇円

(原告会社について)

原告下倉の給料支払分 金四一万七、三七五円

成立に争いない甲第一一号証、証人下倉キクエおよび原告本人下倉の各供述によれば、原告会社は、本件事故当時、その代表取締役である原告下倉に給料として年間一八九万円、月一五万七、五〇〇円を支払つており、同原告が本件受傷により欠勤した期間も、同原告に右額の給料を支払つていたことが認められるから、原告会社は本件事故によりその労務提供と対価関係にない原告下倉の給料支払分の損害を被つたということができるところ、原告下倉はその入院期間中の四一日間は、全く就業せず、通院期間中の七七日間(昭和四九年一二月二九日から同五〇年三月一五日まで)は、同原告が歩行困難な状態にあつたこと、従事する仕事の内容・実通院日数等に照らし、従前の二分の一程度の労務提供しかしていないと認められるから、原告会社は、次記算式で算定される金四一万七、三七五円の損害を被つたというべきである。一五万七、五〇〇円×三〇分の四一日+一五万七、五〇〇円×二分の一×三〇分の七七日=四一万七、三七五円なお、被告髙砂堂は、原告下倉の給料には、労務の対価以外の役員報酬も含まれているから、右報酬分については、原告会社の損害から控除すべきことを主張するが、前掲各証拠によれば、原告会社は婦人、子供服の製造ならびに販売を業とする資本金一八〇万円、従業員四名(原告下倉およびその妻キクエを除く。)の小規模な、個人企業的な会社であり、代表取締役である原告下倉自身、銀行廻り、仕入、集金、裁断、アイロンかけ等、縫製の仕事以外は、全てに従事し、中心となつて切盛していたことが認められ、同原告の、右質的、量的な原告会社に対する稼働寄与度からすると、同原告の給料は、左程高額ということもなく、労務提供相当分というに支障はない。さらに、ビル管理のために雇用した清水小夜子は原告会社の仕事にも従事していたから、その限度で原告会社の損害は填補されたと主張するが、同女は元々ビル管理の必要上、雇用されたのであつて、偶々、手のすいた時に、原告会社の電話番位をしたにすぎないから、同女の存在によつて原告会社の右損害が減少したと認めるまでには至らない。

第四過失相殺

原告下倉が、牽引車が左折をほぼ終えたとき、急に車道に飛び出したとの事実および被告羽根車の後に被牽引車が後続していたのを認識しながら、横断を継続したとの事実は、本件全証拠を以てしても認められないが、原告本人下倉の供述によれば、原告下倉は、西岡運転の車両を右羽根車の後方に認めたが、それは駐車車両と思い、右羽根車通過後歩き出したというのであるから、同原告にも西岡車を駐車車両と軽信し、その動向に注意を欠いた過失が認められる。(なお、証人西岡、同下倉キクエ、被告本人羽根、原告本人下倉の各供述を総合すると、西岡がクラクシヨンを鳴らしたのは、原告下倉が右ロープに足をとられると同時頃であつたと認められる。)

同原告の右過失は、前記認定の被告羽根の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告らの損害の一割を減ずるのが相当である。(原告下倉のみならず、原告会社も前記認定の如く、原告下倉の個人会社的実態を有する以上、公平の見地から、原告下倉の過失により過失相殺される。)

そうすると、被告羽根は原告下倉に請求外治療費として合計金六二万一、六七〇円を支払済であることは、原告ら、被告羽根間に争いなく、また各成立に争いない乙第三号証の一、二によれば、同被告は請求外付添費として金七万四、二七〇円を支払済であることが認められるから、原告下倉の総損害額は、前記損害合計金六五万五、二二〇円に右支払済金員を合計した金一三五万一、一六〇円であるところ、右額から一割を減ずると金一二一万六、〇四四円、原告会社の損害金四一万七、三七五円から一割を減ずると金三七万五、六三八円となる。

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告下倉が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金六万円、原告会社が被告らに対して求め得るそれは金四万円とするのが相当である。

第七結論

よつて、被告らは原告下倉に対し、前記金一二一万六、〇四四円から受領済の金六九万五、九四〇円を控除した金五二万〇、一〇四円と右弁護士費用金六万円の合計金五八万〇、一〇四円およびうち弁護士費用を除く金五二万〇、一〇四円に対する本件不法行為の日である後である昭和四九年一一月一八日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告会社に対し金四一万五、六三八円、およびうち弁護士費用を除く金三七万五、六三八円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原昌子)

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